今回は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対して私が常々思っていることを書いてみようと思います。
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最初にCOVID-19の日本の流行の程度を考えてみましょう。
ニュースやワイドショー、国会での議論でよく目にする『感染コントロール失敗』と『政府の責任』。
日本の状況はそんなに悪いのでしょうか?
人口1億人以上の国(14各国)のCOVID-19累積陽性者数(100万人当たり)を示した図を下に提示します。
(Coronavirus (COVID-19) Vaccinations – Statistics and Research – Our World in Dataより作図)
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この図では、日本は14か国中8番目のCOVID-19の多さですが、ほぼ横ばいの下位8か国の中に入っています。
(中国はデータ公表しないので参考にはなりません)
決して日本のCOVID-19者数は多くはない。
ヨーロッパ諸国と比べるとよく分かります。
(下図:ヨーロッパ諸国と日本のCOVID-19累積陽性者数[100万人当たり])
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ヨーロッパ諸国と比べると、日本は断トツCOVID-19の流行を抑えた優良な国と言えます。
日本ではベストの治療ができる病床数に対して重症者数が多いのは確かだし、問題ないとは思いませんが、少なくとも感染者数や死亡者数の観点からすると、先進国や人口が多い国の中では政策がある程度成功した国であると言えます。
私は、日本の政策が悪いためこの現状がある訳ではないと思います。
改善すべき政策はあると思いますが、COVID-19陽性者が出るのは世界中である程度不可避の状態であるということを認識しなければいけません。
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次に、今最もニュースで報道されるコロナワクチンの件です。
日本は最近頑張ってワクチン接種していますよー。
下の図を見て下さい。
これは100人当たりコロナワクチンが何回接種されたかを表した図です。
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分かりにくいので解説すると、上から7番目で立ち上がりが急になっている国が日本です。
日本100人に約17回接種されています。
この勢いがさらに加速することを祈っています。
さて、日本で現在使用されているコロナワクチンはファイザー社とモデルナ社のいずれもメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンです。
このmRNAワクチン、簡単に言うとウイルスの最も小さな構成要素であるRNAのごく一部を原料としたワクチンです。
(下図:米国国立研究機関の研究員 峰宗太郎医師の講義スライドより)
原料となる構成要素の小さい順に、RNAワクチン、DNAワクチン、ベクターワクチン、組み換えワクチン(タンパク質成分のみ)、不活化ワクチンと生ワクチンとなります。
いずれの物を原料に選んでも、人間に投与されるとその原料(例えばRNAやタンパク質)に対する抗体が人間の中にできて、原料と似た物質(ウイルスや細菌など)が人間に入ってくるとワクチンでつくられた抗体が戦ってくれるという仕組みです。
mRNAワクチンに対して『投与されたRNAが自分のDNAに組み込まれる』とか、『自分ではなくなる』とか批判する方がいますが、それは間違っています。
どの原料(RNAやタンパク質など)を人間に投与しても作り出されるのは原料に対する抗体のみです。原料となる『RNA』や『DNA』、『タンパク質』、『弱毒化したウイルスそのもの』がその人間の遺伝子(DNA)に組み込まれることはありません。
なぜなら、原料は抗体産生のために使われるだけで、その抗体産生はヒトの核(遺伝子の集まり)の外で行われ、決して原料が核の中に入ってくることはないからです。
ちょっと生物学的な話で苦手な方も多いと思いますが、私なりに嚙み砕いて説明してみました。
このmRNAワクチンですが、最大の特徴は簡単に言うと『短期間に効果の高いワクチンを大量に低コストで作成できる』ことです。
このmRNAワクチンの手法を開発した研究者は、いずれノーベル医学賞あるいは平和賞のどちらかは受賞するでしょう。
そんなワクチンを我々はいま手にしている訳です。
幸運なことではないでしょうか。
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今回はいろいろと私見を述べさせて頂きました。
日本は頑張っていると思います。
それは政府もですが、日本国民が頑張っているからこの程度の流行で収まっているのだと思います。
もっともっとコロナワクチン接種が進んで、無事オリンピックが開催されることを願っております。
100歳近くの激しく消耗した老衰の患者さんを訪問診療で担当しています。
寝たきりに近いですが、頭はまだしっかりしていて、オリンピックを楽しみにしているようです。
正直、あと1か月半が長い・・・
私もオリンピックは見たいし、その患者さんにも見てほしいと心から願っています。